適時調査とは?実施の流れや指摘事項・病院経営者が知っておきたい注意点を解説
病院を経営するうえで避けては通れない「適時調査」。医療機関によっては数年に1度のペースでしか実施されず、対応の準備に追われてしまう場合もあるでしょう。健全かつ安定した病院の運営を続けるために、適時調査の概要を紹介します。実施の流れや主に多い指摘事項、準備のポイントや注意点をぜひ参考にしてください。
適時調査とは?
施設基準の届出に沿って運営されているかどうかチェックする調査のことです
適時調査とは、保険医療機関や保険薬局などを対象に実施される調査です。各施設の施設基準を踏まえて、届出内容と実際の運営内容に誤りがないか、人員配置や診療報酬請求の内容は適切であるか、などを確認します。
医療機関の運営が適正かどうかを監査し、必要であれば改善を促します。医療機関経営者は、この調査を通じて法令遵守や業務改善を図ることが重要です。
適時調査と医療監視の違い
適時調査 | 医療監視 | |
---|---|---|
医療監視 | 原則年1回 | 原則年1回 |
調査対象 | 施設基準の届出に基づいた正しい運営がされているか | 安全管理体制や感染対策などが適切にできているか |
調査機関 | 地方厚生(支)局 | 保健所 |
適時調査は、地方厚生(支)局が主に病院を対象に行い、施設基準の届出に則った正しい運営や保険請求が行われているかを確認します。原則1年に1回実施するよう決まっていますが、実際には数年に1度のペースで行われるケースもあります。
一方、医療監視は保健所などが実施する立ち入り検査です。安全管理体制や感染対策が適切にできているかをチェックします。
どちらも医療機関の運営において重要な役割を果たしているため、医療機関経営者は両者の違いを理解し、それぞれに対応する必要があります。
適時調査の重要性
適時調査によって明らかな不正や不適切な届出が発覚すると、返還金が求められるケースがあります。また、場合によっては個別指導の対象になることもあるため注意しましょう。
病院として安定した経営を維持し、患者さんからの信頼を保つためにも、施設基準の届出内容に沿った正しい運営が不可欠です。医療機関経営者はこれらをしっかりと把握し、適切な対応を心がけましょう。
なお、2024年11月時点では、診療所が適時調査の対象になったケースは少ないです。
適時調査が実施される流れ
適時調査が実施される際の流れについて解説します。事前にしっかり把握し、スムーズに行えるようにしましょう。
1.実施通知の送付
適時調査の実施は、調査日の約1カ月前に書面で通知されるのが一般的です。この通知により、医療機関経営者は調査に向けた準備ができます。通知内容には、調査の目的や実施日時、必要書類などが記載されているため、事前に確認して準備を整えることが重要です。
重点的に調査を行う施設基準 | 重点的に調査を行う施設基準以外 |
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・一般的事項 ・初・再診料 ・入院基本料 ・入院基本料等加算 ・特定入院料等 ・特掲診療料 ・入院時食事療養/入院生活療養 |
・基本診療料(情報通信機器を用いた診療に係る基準 など) ・特掲診療料(医学管理等、在宅医療、検査、画像診断、投薬、注射、リハビリテーション、精神科専門療法、処置、手術、麻酔、放射線治療、病理診断 ・歯科(処置等) |
2.事前提出書類・当日準備書類の用意
事前提出書類 | 当日準備書類 | |
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主な書類 | ・基本診療料の施設基準に係る書類 例:入院基本料等の施設基準に係る届出書添付書類(様式9)など ・特掲診療料の施設基準に係る書類 例:リハビリテーション従事者の名簿(様式44の2)など ・保険医療機関の現況 ・組織図および平面図 ・掲示物の写し(写真可)およびホームページをプリントアウトしたもの |
・入院基本料の施設基準に関する書類一式 ・入院時食事療養の施設基準に関する書類一式 ・基本診療料および特掲診療料の施設基準等の届出要件に記載された関係書類一式 ・調査日現在有効な施設基準の届出書(控)一式 ・保険外併用療養費および保険外負担に関する書類一式 ・その他一般的事項に関する書類一式 ・研修要件のある施設基準に係る研修の修了証の写し ・入院案内(入院のしおり) |
期日 | 調査日の10日前までに提出 | 調査日当日までに準備 |
調査日当日の負担を減らすため、調査日の10日前までに事前提出書類を提出する必要があります。また、適時調査の実施日に備えて当日準備書類も整えておくことが重要です。
必要な書類の一覧は、地方厚生(支)局のホームページに掲載されているので、管轄地域のホームページを確認し必要な書類を漏れなく準備しましょう。
3.適時調査の実施
適時調査は、事務所等の事務官(適時調査員など)、保険指導看護師、地方厚生(支)局の事務官などが担当し、チェックが進められます。適時調査進行要領に基づいた手順の説明や院内視察、各種調査などが主な内容です。
調査中に明らかな虚偽の届出が判明または疑われる場合は、調査が中断・中止されることがあります。医療機関経営者は、調査がスムーズに進むよう準備を万全にしておくことが重要です。
【適時調査当日の流れ】
・院内視察
・関係書類に基づく調査
・調査書の運用等
・調査結果の取りまとめ
・調査結果の伝達 (講評)
・その他(助言等)
4.調査結果の伝達・通知
適時調査の結果は、すぐに説明が必要な事項については調査日に口頭で伝達されます。口頭説明以外の重要な事項については、約1カ月以内に書面で結果通知書が送付されるので確認しましょう。
通知書には、指摘事項や改善点が記載されているため、内容を確認して必要な対応を迅速に行うことが求められます。
5.改善報告書の提出・返還金の請求
適時調査の結果の通知後、1カ月以内に改善報告書を作成して提出する必要があります。報告書には、指摘事項に対する改善策や対応状況を記載しましょう。
施設基準を満たしていない事項があった場合は、届出の変更や辞退を行う必要があります。状況によっては返還金を請求されたり、個別指導や監査の対象となったりすることもあるでしょう。早急に改善を行い対応を進めることが重要です。
適時調査の主な指摘事項
適時調査に係る指摘事項 | ・施設基準の届出事項と院内掲示の内容が相違している ・入院基本料等に係る病棟に勤務する看護要員の勤務時間や夜勤時間の計上に誤りがある ・救命救急入院料について、入院患者数・看護師数が確認できる記録がなく、その配置状況を正確に確認できない など |
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適時調査における指摘事項として、実際の届出内容と院内で掲示している内容が異なっている、看護師などの勤務実績表に誤りがある、といった内容があります。各種加算を算定するには、それぞれの要件を満たさなければなりません。要件を満たしていることを証明できないと、加算の裏付けの説明ができず、指導の対象になってしまいます。
参考:北海道厚生局ホームページ 厚生労働省 北海道厚生局医療課「令和5年度 施設基準等の適時調査に係る 指摘事項の概要」
適時調査における「個別指導」とは
適時調査の実施後、ごくまれに「個別指導」が行われる場合があります。個別指導が発生した場合の主な指摘事項は以下のとおりです。
個別指導に係る指摘事項 | ・電子カルテを印刷したときに記載内容が一部反映されず、見読性が確保されていない ・保険診療と保険外診療の診療録を区別して管理していない ・診療録と診療報酬明細書の傷病名が相違している ・医学的に初診と判断できる診療行為がない患者に初診料を算定している など |
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適時調査後の個別指導においては、診療録や傷病名の内容、初診料や再診料の算定に関する指摘事項が挙げられます。診療報酬を適切に算定できていない場合や、診療録への記載が不十分である場合などにみられる指摘事項です。
参考:北海道厚生局ホームページ 厚生労働省 北海道厚生局医療課「令和5年度 施設基準等の適時調査に係る 指摘事項の概要」
従業員の教育を徹底し業務の精度を上げることが大切
適時調査における個別指導では、診療報酬の請求に関する指摘が多くみられます。個別指導の対象になることを防ぐために、診療報酬請求に携わる従業員への教育を徹底することが重要です。正しい請求業務を遂行できるよう、定期的な研修やマニュアルの整備を行い、業務の精度を高めましょう。
従業員のスキル向上は、病院全体の安定した運営にもつながります。医療機関経営者は、教育体制の整備に注力することを心がけてください。
適時調査に備えてやっておくべきこと【病院経営者向け】
適時調査に備えてやっておくべきことを、項目ごとに解説していきます。事前準備が重要なため、病院経営者はしっかり確認しましょう。
適切な書類の管理・運営を徹底する
適時調査では、施設基準要件に関連した非常に多くの書類の準備が求められます。そのため、日頃から書類の管理体制に加えて、平均在院日数や看護要員の勤務実績の把握、人員・運用体制などを整備することが重要です。書類の紛失や記載漏れを防ぐため、定期的な点検や更新を行い、必要書類を適切に保管する意識が求められます。
日常業務の一環として書類や各種情報の管理を徹底し、スムーズな対応ができるよう準備しておきましょう。
よくある指摘事項について確認しておく
地方厚生(支)局のホームページには、適時調査による指摘事項をまとめた資料が掲載されています。事前に確認することで、適時調査に向けて起こりうる問題点を把握し、改善策を講じることが可能です。
あらかじめチェックしておくと、調査当日の指摘を最小限に抑え、対応をスムーズに進められるでしょう。
外部の経営支援サービスを利用する
日常の医業と並行して院内の運営体制を整えるのは、多くの負担がかかるため非常に大変です。これから適時調査を控えている、院内の運営体制を整えたい、というお悩みがある方は、外部の経営支援サービスを活用することを検討しましょう。
ソラストの医療機関経営支援サービスでは、個別指導や適時調査への対応実績をもとに、適切な保険診療体制の構築をサポートいたします。
適時調査に向けて日頃の運営体制の整備を徹底しましょう
適時調査は、医療機関の信頼を守るうえで欠かせません。しかし、日々の業務をこなしながら準備を進めるのは困難な場合もあるでしょう。だからこそ、事前の対策や従業員の教育、必要に応じた外部支援を活用し、無理なく対応できる体制を整えることが大切です。安心して医療に専念するために、日頃から運営体制の整備を心がけましょう。
ソラストでは、医事業務受託で培った業務運営の経験、適時調査や個別指導に対応してきた実績をもとに、貴院の“適切な保険診療体制の構築”に向けた取り組みを支援しています。お悩みの医療機関経営者さまは、ぜひ一度ご相談ください。