デジタルデータを使い、処方箋をペーパーレスで管理
医師が病気の治療に必要な薬を選び、分量や使用方法、使用期間などを記載した文書が処方箋です。薬剤師は患者から処方箋を受け取り、内容が正しいか確認した後、薬を調剤します。
これまで、医療機関から薬局への処方指示(処方箋発行)は紙で行われてきましたが、電子処方箋はデジタルデータを使います。電子処方箋のシステムは2021年10月から本格運用されている「オンライン資格確認」の基盤を利用しています。「電子処方箋管理サービス」と呼ばれる通信ネットワークを通じ、医療機関と薬局が同じ情報を参照できるようになります。
電子処方箋の大まかな流れは次のとおりです。
❶医療機関は診察時などに電子処方箋を希望するか、患者に確認
❷医師は電子処方箋管理サービスに処方箋の内容を登録
❸医療機関は患者に電子処方箋の引換番号を交付
❹患者は薬局で電子処方箋の引換番号を提示
❺薬剤師は電子処方箋管理サービスで処方箋内容を確認のうえ、調剤し患者に薬を渡す
薬剤情報を共有し、質の高い医療の確保へ
医療機関と薬局は患者の同意を前提に、「過去3年分の処方・調剤された薬剤情報」など電子処方箋の登録情報を閲覧できるようになります。患者の記憶などに頼ることなく、より正確な情報を基に、診察・処方から調剤・服薬指導まで行えます。
医師は自院だけでなく、複数の医療機関や薬局をまたいだ調剤結果を把握し、重複投薬や多剤投与などをチェックすることで投薬ミスの防止につなげることができます。また、処方箋を発行する際、電子処方箋管理サービスで項目に不備がないかチェックするため、問い合わせ件数の削減が期待できます。
一方、薬局側も疑問点の照会など、医療機関とのやりとりがリアルタイムでできるようになるため、質の高い薬剤業務が期待されます。調剤結果や、処方した医師への連絡事項は電子処方箋管理サービスで手軽に伝えることができます。また、調剤に関する情報入力や処方箋のファイリング作業などの手間が少なくなるなど、業務効率化の面でもメリットがあります。
患者側にも利点があります。利用する医療機関、薬局が変わった場合でも服薬履歴がわかるため、診療の継続が確保されます。また万一の事故、災害など緊急時でも常用している薬を医療機関が把握できるため安心です。このほか、電子処方箋の情報を電子版お薬手帳などと組み合わせることで、健康管理に役立てることができるようになります。
オンライン診療と組み合わせ、患者・家族の負担軽減
電子処方箋に対応している医療機関、薬局は厚生労働省のホームページで確認できます。1月29日現在、全国で計208の医療機関・薬局が対応しています。厚生労働省が2022年12月に行った電子処方箋に関する調査によると、回答があった全国2万5442の薬局のうち、9割を超える施設で導入する意思があり、そのうち6割が2022年度中の導入を目指すと答えています。
最近では、オンライン診療を行う医療機関が増えており、外出困難な高齢者や、過疎地域の住民への診療が可能になってきました。電子処方箋の導入によって、患者は自宅でオンライン診療を受け、自宅近くの薬局で薬を受け取ることが可能になれば、患者やその家族にとっても負担軽減につながります。
また、多くの高齢者が複数の薬剤を服用しているため、お薬手帳や本人の記憶だけではカバーできない部分もあります。簡単に投薬履歴や飲み合わせチェックができる電子処方箋は高齢者にとっても心強いです。
電子処方箋の導入により、安全・安心な医療サービスが実現すれば、健康増進の第一歩となるでしょう。