職員の知識不足などが虐待行為の要因に
厚生労働省は2007年度から毎年、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(高齢者虐待防止法)に基づく対応状況などに関する調査を行っています。2021年度の最新調査によると、介護職員による虐待と判断された件数は739件で、前年度より144件増加。市町村への相談・通知件数も2,390件で、前年度より293件増加しました。
虐待と判断された739件のうち約2割が、過去にも虐待事例があった施設で発生しており、再発防止が難しいこともわかっています。
介護職員による虐待の発生要因で最も多かったのは、「教育・知識・介護技術等に関する問題」(56.2%)です。介護の経験が浅かったり、高齢者の心身の状況や認知症などに関する知識が不足していたりする職員が、誤った対応をしてしまうケースが考えられます。次いで多かったのが、「職員のストレスや感情コントロールの問題」(22.9%)です。どの職場でも起こることですが、人間関係のトラブルなどによりストレスがたまったり、感情のコントロールが難しくなったりします。
このほかには、「虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等」(21.5%)や、「倫理観や理念の欠如」(12.7%)が挙げられています。職員がきちんと休みを取れなかったり、コミュニケーションを図る余裕がなかったりすることも、虐待の助長につながっていると考えられます。
職員が悩みを相談できる環境づくりが大切
介護現場での虐待を未然に防ぐには、職員がストレスをためないようにすることが不可欠です。そのためには日頃から職員同士のコミュニケーションの場を設け、情報共有を密にするなど、悩みをためずにいつでも相談できるような環境づくりをしておきましょう。リーダーや管理者が定期的に面談などの機会を設けて、積極的に職員の悩みを聞くように努めることも重要かもしれません。
仕事が忙しすぎるのも肉体的・精神的なストレスにつながり、虐待を引き起こす恐れがあります。心にゆとりをもって働けるように、残業をなくし、休憩や休息をしっかり取れるような職場環境の改善も必要です。介護事業所としても、職員が有給休暇をきちんと取得できるように促しましょう。職場環境が改善されると職員の心がギスギスしたりイライラしたりすることが減り、人間関係も良好になって離職防止にもつながります。
ケアを行ううえでのイライラを鎮める方法としては、怒りの感情と上手につき合う心理トレーニング「アンガーマネジメント」も有効とされています。怒りを感じたら6秒数える、いったん思考を止めて深呼吸するなど、怒りを抑える具体的な方法を試してみるのもいいかもしれません。自分なりのストレス解消法を見つけておくこともおすすめです。
正しい知識を身につけるための研修を実施
高齢者虐待に関する研修も重要です。介護職員のなかには、経験や知識の不足から、自分が虐待をしてしまっていることに気づいていない人もいます。そのためにも研修を実施し、どのような行為が虐待にあたるのか、どうすれば不適切なケアを防げるのか、などを繰り返し学ぶことで虐待防止への意識を高めることができると考えられます。
特にリーダーや管理者は、研修によって法制度や虐待事例が発生した場合への対応などについての理解を深めつつ、職員のメンタルヘルスへの配慮も含めたマネジメント能力を高めていくことが期待されます。職場で虐待防止マニュアルなどを作成し、職員が常に確認できるようにしておくことも効果的です。なぜ虐待が起きてしまうのか、どうすれば未然に防げるのかを職場全体で考えて、正しいケアが行われるように取り組んでいく必要があります。