医療・介護の枠を超え、地域の活性化にも力をそそぐ
志村フロイデグループで行っている取り組みについて教えてください。
鈴木 志村フロイデグループでは、病院や介護施設、在宅ケアのみならず、人材育成のための看護専門学校、障がい者の機能訓練センターや就労支援事業所の運営、児童発達支援事業などにも取り組んでいます。
さらに、医療・介護・福祉サービスのみならず、地域起こしにも広く関わっています。商店街の空き店舗を改装してコミュニティカフェもつくっています。ここを拠点とする有志の職員で構成するプロボノ※組織「フロイデDAN」が、今や冬の恒例行事となった駅前イルミネーション点灯式や、住民が気軽に集まれる朝市である「ひたちおおみや楽市」の開催など、さまざまなイベントを行っています。
また、新型コロナウイルス感染症の流行にともない、フロイデDANが「緊急支援チーム」を作りました。買い物代行サービスやSNSを使った運動支援などを行ったり、感染症予防資料の配布などを地域と協力して行っています。
なぜ、医療機関が地域のまちづくりにかかわるようになったのでしょうか。
鈴木 2000年に「地域リハビリテーション」という考え方に出会い、その理念に共鳴したところから始まりました。
地域リハビリテーションとは、高齢であっても障がいがあっても、住み慣れたところでいきいき暮らせるための支援で、医療や介護などにかかわる人々がリハビリテーションの立場から協力して行う、あらゆる取り組みを意味します。当グループでは、介護やリハビリの拠点となる通所・サテライト事業所を地域ごとに開設し、在宅支援を推進する「フロイデ総合在宅支援システム」を展開しており、障がい者支援や子育て支援、そしてまちづくりも地域リハビリテーションの一環という考えで進めています。
地域リハビリテーションを進めていくなかで、少子高齢化や人口減少、人材流出、商店街の衰退といった地域の課題に突き当たりました。当法人の中心となる志村大宮病院のような中小病院は、一度建てたら簡単に「人口が減ったから他へ行く」というわけにはいきません。すなわち地域と運命共同体であり、地域の課題を解決することは病院の存続にもつながります。イベントを開催して人を呼び込む、集まった人が過ごせる場としてカフェを開設する、高齢者の方などにボランティアや職員として活躍してもらい、生きがいを持ってもらう、といった活動を行ったわけです。
このような取り組みを10年、20年と進めていくと、病院の周りにいろいろな建物が作られ、地域ネットワークの中心を担うようになっていきました。私達の取り組みを「フロイデケアタウン大宮構想」と呼んでいます。今年度から始まった常陸大宮市駅周辺の再整備計画のなかに、私達の病院を中心としたまちづくりが組み入れられましたが、これは当グループの取り組みが「医療」の取り組みだけではなく、「まちづくり」であると理解していただいたからだと思います。
地域を支えることは、医療機関として自然な流れ
医療以外を病院がやるのは大変なのではないでしょうか。
鈴木 特に地方ではまちづくりを含めたところまでが、病院経営だと考えています。
これまでの病院は、”医療のみを行う”という形が一般的でした。しかし今は、医療と介護、福祉を一体的に提供する、シームレスなサポートが求められています。地域包括ケアシステムを支える中小病院や診療所の取り組みも、医療から介護、福祉へと自然に広がっていく。もっと言えば、医療・介護が必要になる前の、介護予防や保健、健康づくりにもかかわっていかないと地域を支えられなくなってしまいます。
そういう意味でこれからの病院は、医療法人というよりも「生活応援法人」、もしくは「人生応援法人」と言うべきかもしれない。健康なときも支えるので「病」院ではなく、「健」院と言う時代になるかもしれません。
これからの超高齢社会に向けて、日本の医療はどのような在り方が必要なのでしょうか。
鈴木 従来の医療の中心であった高度急性期医療だけでなく、これまで述べてきたような地域に密着した医療がより重要になると考えます。
海外のものを持ってくるのではなく、日本モデルが必要です。中小病院や有床診療所など日本にすでにある資源を活用して、施設至上主義でも在宅至上主義でもない日本型の医療モデルを構築する必要があります。
そのうえでは、これまでの「急性期大病院→回復期病院→かかりつけ医」という、いわゆる垂直の連携中心から、これからは、かかりつけ医が多職種連携のまとめ役になって、訪問看護師やソーシャルワーカー、ケアマネジャーなどと同じ目線で水平に連携する地域包括ケアシステムの構築を実践してもらいたいですね。
(提供:株式会社日本医療企画)
以上