要介護の原因にもなるフレイル 身体・心・社会の視点で改善を心がける
健康寿命の延伸が推進されるなか、フレイル予防が注目を集めています。そもそも、フレイルとは、どういう状態を指すのでしょうか。
丸山 健康と要介護の中間の状態を意味します。
語源は英語の「Frailty(虚弱)」で、日本老年学会が2014年に提唱した概念で、老化に伴い起きる心身の機能低下や、それらを引き起こす要因としての栄養状態の悪化が進んでいる状態を指します。65歳以上の5%が、80歳以上では20~30%の人がフレイルとされています※1。
厚生労働省の調査※2によると、要支援または要介護と認定された人が、要介護状態になった主な理由のうち「高齢による衰弱」が全体の13.3%を占めています※3。この「高齢による衰弱」はフレイルのことです。フレイルが進むと要介護・要支援状態になるリスクが高まるため、今年4月から75歳以上を対象にした”フレイル健診”が始まりました。特定健診・特定保健指導のなかで実施されており、15の質問項目から、フレイルかどうかを把握していき、必要な指導・診療につなげていきます※4。
フレイルを予防するにはどうすれば良いですか?
丸山 運動・食事・社会参加の3点から予防を心がけましょう。
フレイルには低栄養やサルコペニア(筋力・筋肉量の減少)、口腔機能低下などの「身体的要素」、さらには認知症やうつといった「精神・心理的要素」、閉じこもり、孤立など「社会的要素」が関係します。これらに対して、ウオーキングなどの週に1回程度の適度な運動や、栄養バランスの取れた食事の摂取、家族や友人とのつきあいなどの社会参加といった活動が、進行の予防に効果があると言われています。
行政や地域の多職種と手を組み、フレイル予防に取り組む
田無病院では「老いても足で歩くまち、老いても口から食べるまち、西東京」をスローガンに、フレイル予防に取り組まれています。具体的な取り組みを教えてください。
丸山 院内だけでなく、行政や地域の医療機関などと連携して、さまざまな取り組みを行っています。
当院がある西東京市では東京大学と共同で、市民を対象にしたフレイルチェック事業を展開しています。フレイル予防を市民に広める「フレイルサポーター」養成事業においては、当院の理学療法士も講師となり、フレイルサポーターの方に指導を行っています。
さらに、当市では市役所と市内の病院の医師、管理栄養士、薬剤師など多職種による「地域栄養会議」も昨年末から始まっています。これは、市内のケアマネジャーが持ちよる栄養や食事に関する問題症例を、多職種で解決するもの。低栄養などすでにフレイルになっている人の栄養状態を改善させたり、その一歩前の人がこれ以上低栄養にならないようにするための場となっています。
また、病院や介護施設といった場所に来る患者さんや利用者さんは、すでにフレイル状態になっていることが大半です。そのため、フレイル状態を改善するためのリハビリテーションの実施も重要となります。当院では、敷地に隣接する東京大学農学部と共同し、江戸東京野菜の栽培などの農作業を通じたリハビリテーションを行い、心身の状態改善に取り組んでいます。
医療・介護職の関わりを、地域は待っている
フレイル予防をさらに加速させるためには、何が求められていますか。
丸山 医療職や介護職といった専門職のかかわりがより必要になります。
国は、2040年までに健康寿命の3年の延伸を目標に掲げています。そのためには、国民一人ひとりが健康状態を維持する、つまり、フレイル予防に取り組むことが必要です。フレイル予防は介護予防とも重なり、医療機関や介護施設を必要とする人を減らしていくことにもつながり、社会保障費の削減にもなります。
また、フレイルかな?と思ったときに、すぐに医療職や介護職に相談できる環境があると、フレイル予防を実行しやすくなります。そのためには、日頃から医療・介護職が地域の人と顔の見える関係であることが大切です。
加えて、医療・介護職には、自治体が主体となって開催しているフレイル予防を目的とした会議やプロジェクトなどに、積極的に参加してほしいですね。それが、地域のフレイル予防につながります。病院や施設、地域が主体となった、草の根的なフレイル予防の活動も地域にたくさんあります。これらに参加し、仲間を作りながらフレイル予防の輪を広げていただきたいです。
高齢者が要介護状態にならない取り組みには、医療・介護両方の視点が必要で、両者が合わさらないとうまく機能しません。手を組み、地域を支えることが、地域の予防力を高めると思います。
(提供:株式会社日本医療企画)
以上