個人医院とは?開業のメリットから注意点、医療法人化まで
多くの医療機関がある中で、個人医院とはどのような病院を指すのでしょうか。本記事では、個人医院を開業するメリットや注意点、経営するうえで必要なことをご紹介します。病院経営を考えている方向けに、医療法人化のメリット、デメリットも解説するためぜひ参考にしてください。
個人医院とは?
個人医院とは、医療法上「診療所」にあたる、医師が個人で開業した医療機関です。
個人医院 とは、医師が独立し個人事業主として経営する医療機関を指します。医療法において「診療所」にあたる医療機関であり、患者さんからは「クリニック」や「医院」と呼ばれることもあります。
個人医院は、複数の診療科を持つ規模の大きな病院に比べて、患者さん一人ひとりに寄り添う医療を提供しやすい医療機関です。
【比較】個人病院と病院の違い
個人医院 | 病院 | |
---|---|---|
入院患者のベッド数 | 19床以下 | 8,20床以上 |
医師の数 | 1名で開業可能 | 最低3名以上必要 |
主な役割 | 外来診療・プライマリケア | 入院診療・高度急性期治療 |
初診料・再診料 | 選定医療費の加算なし | 選定医療費の加算あり (200床以上の病院のみ) |
個人医院と病院の違いは、入院患者のベッド数や役割などにあります。個人医院は病床が19床以下と少なく、中には病床を持たない診療所もあります。対して病院は、20床以上のベッド数を持つ医療機関を指します。
また、個人医院は1名の医師がいれば開業ができますが、病院では最低3名以上の医師が必要です。
選定医療費は、紹介状なしで200床以上の病院にかかる際、その受診先の病院が徴収する制度で、医療機関の機能分担を図るためのものです。一般的に行われる、最初に医療費の安い診療所を受診し必要に応じて紹介状を受け取って病院に行く、という流れを作るためのもので、個人医院ではこの加算はありません。
個人医院を開業する3つのメリット
個人医院を開業すると、上記のような3つのメリットが得られます。それぞれについて詳しく紹介します。
給与アップが期待できる
開業医は治療や診察に対する直接的な報酬を得ることが可能になるため、個人医院を開業することで、給与アップが期待できるでしょう。実際に勤務医と比べると、開業医の年収は2倍近く高いという調査結果もあります。
また、診療料金の設定自由度が高く、提供する医療サービスによって収入増加が見込めます。診療の効率化やサービスの質向上によって患者満足度が高まれば、集患や利益の増加にも繋がるでしょう。
地域に根ざした医療を実現できる
医療法人など規模の大きな病院に比べて、患者さん一人ひとりに合わせた個別性の高い医療を実現しやすいのも、個人医院のメリットです。スポーツ医療や在宅医療など、特定分野に注力することも可能でしょう。勤務医ではできなかった診療も、自分自身であらゆることを決められる個人医院であれば実現できる可能性があります。
ワークライフバランスを整えられる
個人医院を開業することによって、ワークライフバランスの自由な調整も可能です。診療時間や休診日を自分のライフスタイルに合わせて設定できるため、たとえば子どもが小さいうちは家族で過ごす時間を増やすなどもできます。
また、スタッフを雇用して業務分担をすれば、医師のプライベート時間の確保も可能です。勤務医時代には勤務時間が決められ、プライベートが確保できなかった人もいるでしょう。開業によって医師自身の生活を豊かにし、仕事とプライベートのバランスも取りやすくなります。
個人医院を開業で注意すべき3つのデメリット
個人医院を開業する際に、事前に知っておきたい3つのデメリットについてご紹介します。
開業には多額の費用がかかる
個人医院を開業するには、多額の費用が必要です。土地や建物、医療機器導入など初期投資の費用に苦慮することもあるでしょう。立地条件の良い場所での開業や、最新の医療機器導入は、特に高額な費用がかかります。
また、開業した後も人件費や維持費、医療材料購入など運営費用が継続して発生します。これらは勤務医であれば考えなくてよいことなので、精神的に負担を感じる人もいるかもしれません。
費用がかかることを前提に、資金計画は開業時の計画段階でしっかりと見積もり、適切な資金調達方法を選択することが重要です。
開業地・開業形態の選定を入念に行う
開業地選定は、個人医院開業の成功に不可欠な要素です。一度開業してしまった診療所を、移転することはさまざまな面で難しいです。事前に、地域の人口密度や競合状況を分析しておくことが重要でしょう。たとえば、高齢者が多い地域では、内科や整形外科などの需要が見込めます。
また、開業形態の選択には自己資金状況や将来展望を考慮し、個人開業にするか、医療法人化を検討するか慎重に選ぶ必要があります。 適切な開業地だけでなく形態の選定を行うことで、地域社会への医療サービス提供の第一歩となるでしょう。
調剤薬局の有無を確認する
病院の利便性を考えると、周辺地域に調剤薬局があるかどうかは重要なポイントです。特に、慢性疾患の患者さんが多い場合や、特定の薬剤が必要な専門治療を行う病院では、近くに調剤薬局がないと、患者さんが不便な思いをします。その病院を利用するかどうかの判断材料にもなるでしょう。
開業地選定時に調剤薬局の有無を確認し、必要に応じて調剤薬局との提携を検討することをおすすめします
個人医院を経営するうえで必要なことは?
個人医院の経営には、医療知識や経験だけでなく、経営に対するノウハウ、マーケティングスキルも求められます。ここでは、個人医院の経営に必要なことを解説します。
経営に関する知識
個人医院を経営するには医療の知識だけでなく、経営に関する深い理解と戦略的な思考が求められます。財務管理や人材管理、サービスの質の向上、さらには患者満足度の向上などが経営者の主な業務です。勤務医時代の医療経験を活かして、というだけでは、経営的な視点が欠けやすくなります。経営者視点を心がけ、市場の変化に応じた柔軟な対応が経営するうえで重要です。
マーケティングスキル
地域に根ざした個人医院として信頼されるためには、まず集患できるかどうかが重要です。新しい病院ができれば、近隣住民に興味は持たれるものの、実際に集患できなければ経営は成り立ちません。
集患するためには、ターゲット患者層を明確にし、そのニーズに応じたサービスを提供することが大切です。何が求められているのかを、デジタルマーケティングの手法を取り入れ把握しましょう。この方法であれば、広範囲な患者層にアプローチが可能です。
近年では、地域コミュニティであってもインターネットの活用は必須。SNSやウェブサイトを上手に活用し、近隣住民との関係を築くことが効果的でしょう。
スタッフのマネジメントスキル
個人医院といえども、組織です。看護師や医療事務など一緒に働くスタッフに対するマネジメントスキルも必要とされます。適切な人員配置はもとより、スタッフのモチベーション維持は、質の高い医療サービス提供に直結します。
また、定期的な研修や教育プログラムを提供し、スタッフのスキルアップを促進することも経営者の重要な業務です。適切な人事管理とともに、人材の育成も個人医院の成功に不可欠な要素といえるでしょう。
個人医院開業の流れ
- 1.開業コンサルタントへの相談
- 2.開業地調査・物件探し
- 3.開業資金の調達・融資
- 4.医療機器・什器の準備
- 5.スタッフ採用活動・研修
- 6.集客に向けての広告・宣伝
- 7.各種行政手続き
個人医院を開業する時には、上記のような流れで進めていきます。医療技術や経験などを身につけた医師であっても、開業に関しては素人です。開業コンサルタントに相談し、コンセプトや事業計画などを作成し、開業地調査や物件探しを始めるのが安心でしょう。
開業資金は高額となることがほとんどのため、融資を視野に入れながら必要な資金調達を行います。診療内容に合った医療機器や什器を選定し、求人広告の出稿、選考、そして採用後には研修も実施しなければなりません。
開業に合わせ、事前に集客のための広告や宣伝活動もします。保健所や厚生局など必要な行政手続きも忘れずに行いましょう。
個人医院を医療法人化する4つのメリット
個人医院を医療法人化すると、上記のような4つのメリットがあります。それぞれについて詳しく解説します。
分院の展開など事業展開の幅が広がる
医療法人化をすると、スムーズに分院の展開や新しい医療サービスの提供などが実現できます。個人医院に比べ資金調達の選択肢が広がるため、新たな投資による事業拡大が容易になるでしょう。
また、医療法人は複数の医療施設を開設できるため、分院を通じて新たな患者層の獲得や特定の医療分野の専門性の強化も行えます。結果的に、医療法人全体のブランド価値を向上させることになり、地域社会における医療サービスの質を向上できるでしょう。
給与所得控除を受けられる
医療法人化によって、従業員に支払われる給与は事業経費として認められ、法人の所得から控除することが可能です。法人全体の課税所得が減少し、支払うべき法人税額も低減されます。
負担が軽くなった分、給与体系や福利厚生の充実を図れます。従業員のモチベーション向上や定着率の向上に寄与するよう、上手に活用しましょう。
家族に役員報酬を支払える
医療法人化すると、家族メンバーを役員として登録し、合法的に役員報酬を支払えます。医院の利益を家族間で分配することで、税負担の軽減につながるでしょう。
役員報酬は給与所得となるため、給与所得控除の適用対象にもなります。ただし、役員報酬を支払うためには、その役員が実際に経営に関与していることを証明する必要がある点に注意しましょう。
所得税などの個人課税が法人課税に切り替わる
医療法人では、所得税などの個人課税が法人課税に切り替わります。個人医院では、個人事業主となるため所得税の税率は最大45%ですが、法人税であれば800万円以下の所得については15%、800万円を超える所得については23.2%に抑えられる点もメリットでしょう。
また、法人化により法人が得た利益を再投資に回すこともでき、医院の設備投資やサービスの向上につなげられます。税制面でのメリットは、医療法人化を検討する上で重要なポイントになるでしょう。
個人医院の医療法人化で注意したい3つのデメリット
個人医院を医療法人化すると、上記のようなデメリットもあります。あらかじめデメリットについても理解を深めておきましょう。
運営管理の手間がかかる
運営管理の手間がかかるというデメリットは、医療法人化する際に避けられない問題です。個人医院と異なり組織の構造が複雑で、従業員の管理や会計処理、税務申告などの業務が増えます。
また、法人化によって必要となる各種規制への対応や社内規定の策定など、運営上の責任も大きくのしかかるでしょう。このような管理業務を適切に行うためには、その分野の専門知識を持ったスタッフの雇用や、外部の専門家との連携が欠かせません。
社会保険と厚生年金への加入が必要になる
医療法人化すると、従業員を雇用する際に社会保険と厚生年金への加入が義務付けられます。社会保険には健康保険と雇用保険が含まれ、厚生年金は老後の生活を支える大切なものです。従業員に安定した福利厚生を提供することで、優秀な人材を確保しやすくなりますし、人材の流出も防げるでしょう。病院を長期的に経営するための、重要ポイントでもあります。
ただし、保険料は経営者の負担となることも理解しておきましょう。特に開業初期は、経済的な負担が大きくなる可能性があります。
法人の解散が簡単に認められない
法人の解散は個人事業主と比較すると手続きも複雑で、容易に認められない点は医療法人化のデメリットといえるでしょう。法人が持つ財産や債務、従業員の雇用状況など、多くの関連事項を適切に処理する必要があります。
また、株主や関係者の同意も必要で、税務署への報告、債権者への通知と債務の清算、残存財産の分配なども行わなければなりません。特に医療法人は、患者への責任や医療機器の処分、従業員の雇用移管などの配慮も求められ、解散に至るまでのプロセスはさらに複雑です。
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医療法人はもちろん個人医院も、開業すると本来の診療業務だけでなく、経営やマーケティングも実施しなければなりません。診療業務にもっと集中したい、経営は大変と感じることもあるでしょう。
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法人化も視野に入れて、個人医院の経営を成功させましょう!
本記事では、個人医院の開業や経営のポイントや医療法人化についてご紹介しました。開業することで、自分が理想とする医療サービスを提供できる反面、経営やマーケティング、スタッフのマネジメント能力も求められます。
理想の診療を目指して開業したのに、経営やマネジメントに時間が取られることが多いなど、悩みを抱える方もいるかもしれません。法人化するメリットや注意点を踏まえたうえで、自院の経営方針を検討してみてください。
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