医療機関の個別指導・監査は何年ごとに行う?流れや内容・注意点を解説


医療機関を経営する場合、個別指導や監査の対象となる場合があります。日々の業務に追われる中で、「いつ個別指導を行うのか」「監査の対象になる可能性もあるのか」と不安に感じる場合もあるでしょう。今回は、医療機関の個別指導や監査の流れや必要な準備、監査を受けないためにやるべきことを紹介します。
医療機関を対象とした「個別指導」「監査」とは?
個別指導とは | 保険診療や診療報酬請求を正しく・適切に行えるように周知徹底するための指導 |
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監査とは | 診療内容や診療報酬請求に関する不正や著しい不当の疑いについて、事実関係を把握し、公正かつ適切な措置を執るための調査 |
医療機関を対象に国が実施するものに、個別指導や監査があります。個別指導は、保険診療や診療報酬請求を適切に実施できるように厚生局が指導するものです。個別指導で発覚した問題が改善されないと、監査に発展します。
監査の役割を理解するため、監査の前段階で実施される個別指導とあわせて解説していきます。
個別指導とは
指導の種類 | 概要 |
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個別指導 | 個別の面接懇談方式により、保険診療や診療保険の請求について確認 |
集団的個別指導 | 個別の簡便な面接懇談方式により、保険診療や診療保険の請求について確認 |
新規個別指導 | 新たに保険医療機関に指定された医療機関に対し、指定から1年以内に行われる保険診療や診療保険の請求についての確認 |
個別指導とは、厚生局が医療機関などに対して、正しい保険診療や診療報酬の請求を周知徹底するために実施されるものです。その形態は「個別指導」「集団的個別指導」「新規個別指導」の3つがあります。
「都道府県個別指導」の実施機関は、地方厚生(支)局と都道府県です。「個別指導」では担当者が医療機関に赴いて実施しますが、「集団的個別指導」では指導対象となる保険医療機関を一定の場所に集めて、面接懇談形式にて指導を実施します。また、特定共同指導や共同指導では、厚生労働省が主催として加わります。
なお、個別指導の対象となる医療機関には、厚生局から文書通知が届きます。
監査とは
監査は、個別指導で「要監査」と判断された場合に実施される、より詳細な調査です。他にも、診療報酬の不正請求や法令違反の疑いがある場合などにも実施され、医療機関の運営状況が徹底的に評価されます。
基本的には、個別指導で明らかな不正があった場合や、何度も個別指導を受けていながら改善されない場合に監査の対象となります。また、個別指導の通知が来たにもかかわらず、拒否して指導を受けなかった場合も、監査の対象となる場合があります。
【監査対象の医療機関の選定基準】
・度重なる個別指導によっても、診療内容や診療報酬の請求に改善がみられない
・正当な理由がなく個別指導を拒否している
個別指導・監査の実施状況
種類 | 実施件数(前年比) |
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個別指導 | 1,505件(対前年度比 455件増) |
新規個別指導 | 6,742件(対前年度比 2,289件増) |
監査 | 52件(対前年度比1件増) |
参考:厚生労働省「令和4年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について」
令和4年度の個別指導・監査の実施状況は、上記のとおりです。新規個別指導は、保険医療機関に指定されて1年以内の医療機関を対象に実施するため、件数は多くなっています。
監査は、個別指導の結果、あるいは正当な理由なく個別指導を拒否した場合に実施されます。上記の監査がすべて個別指導の結果から実施に至ったわけではないものの、個別指導の件数に比べると、監査が行われるケースは低いと言えるでしょう。
医療機関の個別指導の流れ・必要な準備

個別指導を正当な理由なく拒否した場合を除き、いきなり監査に発展することはありません。基本的には個別指導の結果のもとで監査になるため、まずは個別指導の流れや準備について理解しておく必要があります。ここでは、個別指導の流れや必要な準備を詳しく解説していきます。
【個別指導の選定基準】
指導の種類 | 選定基準 |
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個別指導 | ・支払基金や保険者、被保険者などから診療内容または診療報酬の請求に関する情報の提供があり、個別指導が必要とされた保険医療機関等 ・個別指導の結果、「再指導」または「経過観察」を受け、改善が認められない保険医療機関等 ・監査の結果、戒告または注意を受けた保険医療機関等 ・集団的個別指導の結果、指導対象となった大部分の診療報酬明細書について、適正を欠くものが認められた保険医療機関等 ・集団的個別指導を受けた保険医療機関等のうち、翌年度の実績においても高点数保険医療機関等に該当する ・正当な理由がなく集団的個別指導を拒否した保険医療機関等 ・その他とくに都道府県個別指導が必要と認められる保医療機関等 |
集団的個別指導 | ・診療報酬明細書の1件当たりの平均点数が高い保険医療機関等 |
新規個別指導 | ・新規で保険医療機関に指定されてから1年以内の保険医療機関等 |
※個別指導のうち「都道府県個別指導」の選定基準です。特定共同指導などは別の基準によって選定されます。
個別指導の対象となるのは、患者さんや保険者などから情報提供があった場合や、個別指導の結果を受けてもなお改善が見られない場合などです。集団的個別指導は、診療報酬明細書の1件あたりの平均点数が高い保険医療機関などを対象に、平均点数が高い順で選定されます。
新規個別指導は、新規で開業した医療機関を対象に、開業から1年以内を目安に実施されるものです。
個別指導の実施の流れ
指導の種類 | 実施の流れ |
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個別指導 | 1.指導実施の通知 2.書類等の準備 3.原則、指導月以前の連続した 2 カ月分の診療報酬明細書に基づき、関係書類等を閲覧し、面接懇談方式により実施 |
集団的個別指導 | 1.指導実施の通知 2.書類等の準備 3.個別に簡便な面接懇談方式により指導を実施 |
新規個別指導 | 1.開業から1年以内に指導実施の通知 2.書類等の準備 3.面接懇談方式により指導を実施 |
いずれも、通知がきてから必要書類を準備し、当日に面接懇談方式にて指導を受ける流れです。指導実施の通知で、指導の実施日時や場所が指定されています。出席者は保険医療機関の管理者を基本とし、必要に応じて診療報酬請求の担当者や看護担当者の出席が求められます。
なお、個別指導では、原則として保険医療機関の開設者の出席も必要です。
個別指導終了後の措置
措置の分類 | 概要 |
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概ね妥当 | 診療内容や診療報酬請求の内容が概ね妥当適切である |
経過観察 | 診療内容や診療報酬請求の内容に適切でない部分が認められるものの、程度が軽微であり、診療担当者の理解も十分に得られ、改善の期待ができる |
再指導 | 診療内容や診療報酬請求の内容に適正を欠く部分が認められ、再度指導を実施しないと改善状況が判断できない |
要監査 | 指導の結果「監査要綱 」に定める監査要件に該当する判断 |
個別指導が終了すると、医療機関には指導結果が報告されます。指導結果に基づく措置の種類は、「概ね妥当」「経過観察」「再指導」「要監査」の4つです。
「概ね妥当」「経過観察」は大きな問題はないとして、一度で指導が終了します。ただし、「概ね妥当」「経過観察」であっても、指摘事項があれば改善報告書の提出は必須です。なお、「再指導」の結果を受けた場合は、文字通り再指導の対象になります。
また、個別指導の結果、もっとも重い評価が「要監査」です。一般的に、診療報酬の請求に関する不正や不適切な業務運営が指摘された場合に監査の対象となります。不正や不適切な業務運営の例としては、具体的に以下のようなものがあります。
監査後に取られる措置
行政上の措置の種類 | 概要 |
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指定・登録の取消 | 保険医療機関としての指定、あるいは保険医の登録が取消となり、原則5年間再指定・再登録ができなくなる |
戒告 | 保険診療は継続できるが、のちに個別指導の対象となる可能性がある |
注意 | 行政上の措置として、注意を受ける |
措置なし | 指摘された問題に対する措置なし |
監査の結果によって取られる措置は、上記4つです。
もっとも重い措置は、保険医療機関・保険医の指定・登録の取消です。取消を受けた場合、原則5年間は再指定・登録ができなくなります。
また、経済上の措置として、原則5年間分に請求した報酬の返還が求められます。このとき、40%の加算金が加えられることもあり、過剰請求の額が大きいほど返還額も高額になります。
【監査後、保険医療機関等の指定取消となりうる例】
ケース | 概要・例 |
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架空請求 | 実際に行っていない診療内容・行為があったことを偽り、診療報酬を過剰に請求した 【例】当月は受診していないが、前月受診した患者さんの被保険者証の記号・番号を使い、前月と同内容の診察を行ったものとして請求した |
付増請求 | 実際に行った保険診療に、実際には行っていない保険診療を付け増しして診療報酬を請求した 【例】実際には1ヶ月に1回しか診察していないが、3回診察したものとして再診料を付け増しして請求した |
振替請求 | 実際に行った保険診療を点数の高い別の診療に振り替えて過剰に診療報酬を請求した 【例】実際に行った創傷処置は50cm2であったにもかかわらず、500cm2以上3000cm2未満の創傷処置を行ったと偽って請求した |
不当請求 | 算定要件を満たさないなど、診療報酬請求の妥当性を欠く請求をした 【例】診療録に呼吸心拍監視装置等の観察結果の要点を記載していないにもかかわらず、呼吸心拍監視を算定した |
個別指導で「要監査措置」を受けた医療機関はどうなる?

個別指導で「要監査」の評価を受けた医療機関は、改めて詳しい調査を受けるために以下の流れで監査が実施されます。
監査の流れ・内容
2. 監査実施の通知
3. 監査の実施
4. 監査調書の作成
5. 監査後の措置の実施
監査の実施通知が来る前に、監査担当者による診療報酬明細書による書面調査や、患者さんなどに対する実地調査が行われます。この結果、監査対象になった医療機関に対して、「監査実施通知」が文書で通知されます。
事前調査・通知を経て実際の監査が実施され、問題となる診療録や請求書を確認していきます。監査終了後は、担当者によって報告書が作成され、医療機関に対する措置が決定します。
個別指導でよくある指摘例
・医学的な診断根拠がない傷病名や医学的に妥当とは考えられない傷病名が記載されている
・初診(再診)に関連する一連の行為とみなされる行為の費用は、本来当該初診料(再診料)に含まれ、別に再診料を算定できないものの、個別で算定している
・治療計画に基づく、服薬や運動、栄養など療養上の管理内容の要点について診療録への記載がない、または不十分である
・退院時リハビリテーション指導料について、指導(または指示)内容の要点に係る診療録への記載が不十分である など
参考:東海北陸厚生局「令和5年度に実施した個別指導 において保険医療機関(医科) に改善を求めた主な指摘事項」
指摘される可能性がある内容は、診療録の記載に関する内容や基本診療料に該当するものなど、上記のようにさまざまです。個別指導・監査では診療内容や診療報酬請求について詳細に調査するため、医療機関側の見落としや単純なミスが指摘の原因となる場合もあるでしょう。
故意に行った不正だけでなく、過失も指摘対象となるため、日頃からの正確な診療・請求が重要です。
個別指導・監査の対象になった場合の注意点【医療機関経営者向け】

・診療録の不備や誤りは素直に認める
・必要な書類をもれなく準備する
・診療録の追記・改ざんは絶対にしない
・感情的になって対応をしない
・院内全体で正しい知識の周知と対応を徹底する
医療機関の適切な運営のためには、日頃からの正確な保険診療・診療報酬の請求が不可欠です。個別指導や監査の対象になった場合に、知っておきたい注意点をご紹介します。
個別指導の対象になった場合は拒否をしない
個別指導の対象に選定された場合、正当な理由なく拒否をすると監査の対象となってしまいます。現場が忙しく、個別指導を受ける時間がないといった理由は、正当な理由とはなりません。
拒否すると何か疑わしいことがあると思われる可能性があるため、通知が来た場合にはむやみに拒否しないようにしましょう。
診療録の不備や誤りは素直に認める
診療録に不備や誤りが発見された場合は、素直に認めることが大切です。誤りを隠そうとすると、余計に問題が大きくなり、ペナルティを受ける可能性が高まります。個別指導での指摘には誠実な対応を心がけ、すみやかに改善に徹する姿勢を見せましょう。
必要な書類をもれなく準備する
個別指導や監査の対象に選定された場合、必要な書類をもれなく準備することも不可欠です。通知の際に必要な持ち物や書類が提示されているため、実施日に向けてすべてしっかりと揃えておきましょう。
診療録の追記・改ざんは絶対にしない
個別指導の直前になって診療録の誤りを発見しても、不備を隠すために追記したり、不当に修正したりしないよう注意が必要です。単純な不備であったとしても、直前に修正することで「改ざん」と捉えられ、監査の対象となってしまう可能性があります。
感情的になって対応をしない
指導に対して感情的になってしまうと、誤解を招き、状況を悪化させてしまう可能性があります。診療録の不備を指摘された場合でも、冷静かつ誠実な態度で、解決に向けたコミュニケーションが取れるよう心がけましょう。
院内全体で正しい知識の周知と対応を徹底する
監査に発展しないためには、日頃から診療録の正しい記載と誤りのない保険請求が求められます。そのためには、医療機関全体で正しい知識の周知と対応の徹底が必要です。スタッフ全員が最新のガイドラインを理解し、日常業務に反映させていきましょう。
定期的な研修を行ったり、情報共有の場を設けたりして、スタッフ全員が同じ方向を向いて業務を遂行できる環境を構築することがポイントです。
個別指導に備える!ソラストの「医療機関経営支援サービス」
ソラストの医療機関経営支援サービスでは、実際に個別指導や適時調査に対応してきた実績をもとに、医療機関の「適切な保険診療体制の構築」に向けて支援を行います。
ソラストには、保険診療や診療報酬請求業務に精通したスタッフが多数在籍しています。当社スタッフの専門的な視点から、ルールが正しく守られているか、適切に運用されているかチェックを行い、改善のためのサポートを行います。
医療機関の個別指導や監査に関するQ&A
ここでは、医療機関の個別指導や監査に関するよくある質問に回答しています。
Q.医療監視・適時調査・特定共同指導との違いは?
医療機関に対しては、さまざまな指導・調査が実施されます。個別指導や監査もその一種であり、他にも医療監視や適時調査、特定共同指導といったものがあります。
医療監視(立入検査) | 保健所によって、医療法に基づく基準が守られているかどうか調査するために定期的に実施される検査。現在は「立入検査」と呼ばれる。 |
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適時調査 | 診療報酬点数表の基本診療料や特掲診療料が施設基準届出項目に対して適正であるかをチェックする実地調査。 |
特定共同指導 | 厚生労働省や都道府県、地方厚生局が共同し、大学附属病院や臨床研修病院などの特定の保険医療機関に対して行う指導。主な指導内容は、保険診療や診療報酬請求の適正性、施設基準の遵守状況など。 |
Q.個別指導は何年ごとに行う?
都道府県個別指導の実施に、明確なサイクルはありません。下記いずれかの選定基準に該当する場合に実施されます。
・個別指導の結果、「再指導」または「経過観察」を受け、改善が認められない保険医療機関等
・監査の結果、戒告または注意を受けた保険医療機関等
・集団的個別指導の結果、指導対象となった大部分の診療報酬明細書について、適正を欠くものが認められた保険医療機関等
・集団的個別指導を受けた保険医療機関等のうち、翌年度の実績においても高点数保険医療機関等に該当する
・正当な理由がなく集団的個別指導を拒否した保険医療機関等
・その他とくに都道府県個別指導が必要と認められる保険医療機関等
Q.監査の対象になるとすぐに取り消し処分を受ける?
監査の対象になったからと、すぐに取消処分になることはありません。取消処分になるかどうかは、監査の実施後に判断されます。
なお、厚生労働省「令和4年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について(概況)」によると、監査を受けた医療機関は52件に対し、取消等の状況は下記のとおりです。
保険医療機関等の指定取消 | 18件 |
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保険医等の登録取消 | 14人 |
※「指定取消相当」「登録取消相当」を含む
参考:厚生労働省「令和4年度における保険医療機関等の指導・監査等の実施状況について」
Q.医療機関の監査は内部告発によって行うケースもある?
現スタッフや元スタッフによる内部告発により、監査に発展する可能性もあります。ただし、内部告発があったからといきなり監査が実施される可能性は少ないでしょう。まずは個別指導が入り、その結果、悪質な不正が認められた場合は「要監査」の評価のもと監査に発展します。
個別指導から監査に発展しないよう、ルールの周知と適切な業務遂行が大事
医療機関は、保険診療や診療報酬請求が適切に行われているか、基準を守った運営ができているかなどを調査するため、さまざまな指導・検査を受けることがあります。いきなり監査を受けることはないですが、個別指導の結果改善が見られなかったり、重大な不正が認められたりした場合、最終的に監査に発展します。
監査の対象とならないためには、日頃から正しい保険診療・診療報酬請求を行うことが重要です。しかし、日々業務を遂行するなかで、全てが正しく行われているかを内部で把握することは難しいでしょう。
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