基本的な感染症対策を持続させることが最も大切
今年の冬は、インフルエンザなどの感染症に加え、新型コロナウイルス感染症の同時流行が危惧されていますが、特別な対策は必要でしょうか。
舘田 マスク着用などの飛沫拡散防止、うがいによる上気道の清潔の維持、手洗いや消毒などの手指衛生の徹底、ソーシャル・ディスタンスを取ること、室内換気を適時に行うこと――といった基本的な予防策を持続させることが、最重要です。
日本の新型コロナウイルス感染症の発生状況は、11月12日現在までに感染者数の累計が11万1711人、死亡者数が1,851人となりました。第三波が来ていると言っていいでしょう。
現在のところ、新型コロナウイルスには効果的なワクチンも治療薬もありません。感染者数が急増すると対策が呼びかけられ、それによって感染者数が減り、しばらく細かく増減する、という一連の流れが繰り返し起こります。感染対策をどこまでやればいいのか不安になるかもしれませんが、基本的な感染対策の徹底が感染拡大を防ぐ、という意識を皆が持つことが大切です。
一方で、インフルエンザよりも合併症の発生率は高いものの、感染性は低いなど、新型コロナウイルスの特徴もわかってきました。マスクを着けて普通に仕事をする分には、感染することはほとんどないことを理解し、過度に怖がらないことも大切です。マスクを外したい場合は、周りに人がいない場所に限定するなど、工夫すればいいのです。
冬になるとインフルエンザやノロウイルスなどの感染症が猛威を奮いますが、大事なのは、今まで続けてきた対策を途切れさせないことです。今夏、季節が反対のオーストラリアでは、新型コロナウイルス感染症対策を徹底したら、インフルエンザが流行しませんでした。日本でも昨シーズンのインフルエンザ患者数は、例年より減少しました。夏場の手足口病の流行も見られませんでした。複数のウイルスが存在したとしても、ウイルスの感染を防ぐ方法に大きな違いはないことを理解しておきましょう。
しかし、忘年会や会食など人が大勢いる屋内では、マスクを外したり、大声を出したりするなど、気が緩みがち。感染の危険性が増すので。この冬は、特に気をつけていただきたいところです。
診断フローチャートはできているので慌てない
もし、かかってしまったらと思うと不安です。新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの両方が疑われる場合、検査はどのように進むのですか。
舘田 日本感染症学会ではこの8月に「今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて」と題する提言書を出しました。この提⾔は、⼀般のクリニックや病院での外来診療を対象としており、インフルエンザと新型コロナの違いを明示し、そこから診断までの流れを示しています。医療機関や高齢者施設にはその遵守をお願いしています。
この提言に沿って、下のフローチャートのように、各医療機関では、新型コロナウイルスとインフルエンザの流行状況と、各患者の症状の違いを踏まえて、医師が新型コロナか、インフルエンザかどうかを鑑別し、疑わしい方から検査を行います。
インフルエンザ患者は新型コロナウイルス感染症患者よりも多数になると予想されています。インフルエンザは突発的な高熱や筋肉痛といった症状が顕著です。まず、インフルエンザ患者を峻別し、一般病棟で診ることになります。
発熱はあっても高熱ではない患者、インフルエンザの治療が効かない患者は、新型コロナの検査を行います。どちらか鑑別しがたい患者の場合は、どちらの検査もします。そのうえで、基本的には隔離・経過観察・対症療法のいずれかを行います。
診断の流れは確立されているので、患者さんには慌てずに、発熱などの症状が出たら保健所や医療機関に相談するように呼び掛けていただきたいと思います。
関係者だからこそ、基本的な対策をしっかりと
特に医療・介護従事者が気をつけなければならないことはありますか。
舘田 医療・介護関係者だからこそ、基本的な対策を持続させてください。新型コロナウイルス感染症対策が、インフルエンザなどの感染症対策にもなることを肝に銘じ、それぞれの施設で気を緩めずに継続させることが重要です。ただし、今は誰が新型コロナウイルスに感染していてもおかしくなく、自己管理だけでは防ぎきれません。基礎的対策の継続と合わせて、パニックを起こさないことが、とても大切です。
たとえば、新型コロナウイルス感染症の流行初期には、マスクなどの衛生用品が買い占めにより不足する事態になりました。また衛生用品の不足が生じて医療現場を直撃すれば、医療崩壊を招きます。正しい知識の普及は大切です。
正しい知識がないと、感染者を責めるようなことや、感染者に対する差別や偏見が起こります。感染症に対するリテラシーを上げるための啓発も医療機関の役割です。現在の危機は、そうしたリテラシーを上げる機会です。冷静に正しく恐れることを広めていきましょう。
(提供:株式会社日本医療企画)
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