6月1日からパワハラに対する企業の防止対策の強化が義務付け
なぜ今、職場のパワハラが問題として取り上げられているのでしょうか?
佐藤 事業主にパワハラ対策を義務付ける法律が今年6月1日から施行されることがあります。
パワハラは、被害を受けた本人ばかりか周囲の人の仕事への意欲を減退させ、最悪の場合は、休職や離職にもつながることもあります。こうした状況を改善すべく昨年6月5日に労働施策総合推進法が改正され、パワハラ対策の法制化やセクシュアルハラスメントなどの防止対策の強化が盛り込まれ、今年6月1日から施行されます。医療機関でも、常時使用する労働者数が100人以上のところは、6月1日から対象となります。
具体的には、「事業主の方針等の明確化とその周知・啓発」「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」「パワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応」「併せて構ずべき措置(相談者・行為者のプライバシー保護、不利益な取り扱いの禁止等)」などを行うことが求められます。
パワハラ対策を職場で取り組むにあたり、まずやるべきことはなんですか?
佐藤 パワハラを正しく理解することです。
同改正法でのパワハラの定義は、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優越性を背景に、業務上の必要かつ相当な範囲を超えて、精神的・身体的に苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為を指します。職場内の優位性には、管理職など職務上の地位に限らず、人間関係や専門知識、経験などさまざまなものが含まれます。改正法では、具体的に図表にあるような「身体的な攻撃」から「個の侵害」まで6つの行為類型を挙げています。
注意したいのは、6つの行為類型は典型例で、これだけがパワハラのすべてではないということ。
何が業務上の必要かつ適正な範囲を超えるかは、業種や企業文化の影響を受けるため、職場内でその範囲を明確にし、職員間の認識をそろえるべきでしょう。
円滑なコミュニケーションなくしてパワハラは予防できない
どういった言動がパワハラとされやすいのですか?
佐藤 管理職と部下間で、嫌がらせと曲解させるほど過度に業務を振ったりすることが挙げられます。
子育て中のため時短勤務をしている部下に気を使い業務を軽くしたところ、「不当に軽い仕事をさせられている」と不満をもたれたり、正職員がパート職員の体調を心配して声をかけた際に、「私の働きぶりに不満があるのか」と勘違いさせてしまうといったことも、パワハラとされることがあります。
パワハラを発生させないためには、何をすればよいのでしょうか?
佐藤 管理職は、普段から職場内の円滑なコミュニケーションを図ることが大事で、人間関係構築力つまり「ヒューマンスキル」が必要になります。
医療機関で働く職員は、職種や雇用形態の違いなどがさまざまなうえ、今は働く人の価値観が多様化しています。それらの違いを理解したうえで、仕事上の不満や悩みを聞き出し、解消していくことがパワハラの予防になります。
さらに部下が意欲的に働けるような職場環境をつくったり、悩みや課題を相談しやすい「ヒューマンスキル」の高い管理職に育成、登用するなど、今後はパワハラ防止を意識した管理職育成が課題になるでしょう。
専門職間の上下関係を排除し、職員を守るルールづくりを今すぐ
医療機関がパワハラ防止対策をする場合、何に注意すべきですか?
佐藤 専門職の集まりであるという点です。
病院をはじめとする医療機関は、医師や看護師など専門職の集まりであり、それぞれが専門職としてのプライドを抱えています。まずは、専門職同士がお互いを尊敬・尊重し合える関係をつくることが肝心です。
相談窓口の設置、防止対策マニュアルの作成などの措置だけでなく、まずは理事長・院長など組織のトップが、「パワハラは許さない」とのパワハラ防止の強いメッセージを出すことが不可欠です。
さらに、こうしたマネジメント業務は医療機関での事務職の役割の一つです。彼らの積極的な取り組みも、院内のパワハラ防止につながります。今回の改正法の範囲ではないですが、患者からの「パワハラ」も想定し、「患者から被害を受けた看護師は別の看護師と交代する」などルールを決めておくと、職員も安心して働くことができます。早速、対策を始めてください。
(提供:株式会社日本医療企画)
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